「タイに乗ってぇー、敵に体当たりぃーーー!」
ダジャレを叫んでいるのは、戦国武将を名乗る男だ。
彼はたった一人で水軍を立ち上げ、敵陣へと進軍していた。
大海原に幾重にも立つ波をかいくぐりながら進むその姿は、勇壮で、ほれぼれするほどだった。
しかし、彼の率いる水軍が活躍する機会はなかった。
敵陣Aが海に面していなかったからだ。
通常、敵を攻めるなら、陸から歩兵を進めるのが王道である。城の周囲に堀を巡らせるのは、それを防ぐためだ。
だが、敵陣が海を背に築かれていた場合はどうか。
陸からの攻撃に備える敵の裏をかき、海側から攻め込むことができる。
彼は、そんな奇策を実現するためにタイを調教し、その背中に乗って敵陣へ攻め入ろうと目論んでいたのだ。
◇
今回の戦場は、山の麓に築かれた武田信玄の城だった。
山城である。
もちろん、海から攻め込むことなどできない。
彼に出番はなかった。
その後も、幾度となく戦が繰り返された。
しかし、彼に出番はなかった。
当然ながら、武勲を挙げることもできない。
彼は大海原を進みながら、ふと思った。
「うむぅ……馬のほうが良かったか?」
いつまでも大海原を航海する彼は、今さらながら後悔した。

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