マジシャン

僕は世界的なマジシャンの弟子になった。

師匠の身の回りの世話をしながら、マジックのすべてを学ぶ。

「いいか、俺の技を教えてもらおうなんて思うな。盗むんだ!」

僕は師匠に付き従い、その一挙手一投足を見逃さないようにした。

弟子になってから1年が経った頃、ふと気が付いたことがあった。

あんなに有名なマジシャンなのに、僕が初めての弟子だったのだろうか。

たぶん、かつて弟子になった者たちは、師匠の高度な技を使ったマジックを習得できなかったのだろう。

「きみはなかなか素質があってよろしい。励み給え」

弟子になってから1年後、師匠からいただいたありがたいお言葉だった。

うれしかった。

  ◇

それからさらに1年後。

「きみは間違いなく、いいマジシャンになれる。このまま励み給え!」

師匠からのありがたいお言葉だ。

あれほど有名なマジシャンからのお墨付きだ。

うれしかった。

  ◇

さらに1年後。

僕は、そんなありがたいお言葉をいただきながらも、ずっと疑問に思っていることがあった。

弟子になってからというもの、僕は師匠のマジックを真似て、練習を繰り返す毎日だった。

例えば、トランプを使ったマジック。

トランプを切り始めると、トランプが本当に切れてバラバラになってしまう。

その後、トランプを使ったマジックは断念した。

次は、コインを使ったマジック。

コインを手のひらに乗せ、右手から左手へコインを移動させる技を見せようとした。

ところが、コインは消えてしまい、行方不明になった。

その後、コインを使ったマジックも断念した。

そんなことを繰り返しているうちに、僕のマジックのレパートリーは少なくなる一方だった。

そして極めつけは、師匠の大技「短剣投げ」だ。

こればかりは、人を的にして短剣を投げる練習はしていない。

僕は壁の前に立ち、師匠の手から繰り出される短剣を、ただ受けるだけだ。

的になる人にとっては、まさに命がけのマジックである。

代々、師匠と信頼関係の強い弟子が、その役を務めてきた。

  ◇

ある日、僕はイベントショーに出演していた。

いつものように、ショーの最後で師匠の短剣投げが実演される。

僕はこれまで、何度となく師匠の短剣を受けてきた。

師匠と僕の揺るぎない信頼関係は、今日も健在だ。

僕は、まったく短剣が怖くなかった。

いつもと同じだ。

そう思っていた。

「うぅ……」

突然、僕の左胸に、かつてない痛みが走った。

目の前にいる師匠の姿が、かすれていく。

「師匠……僕は……」

そこで、僕の意識は途切れた。

その直後、師匠が観客に向かって言った。

「皆さん、ご安心ください。これも予定どおりのマジックです」

客席から、大きな拍手が起こった。

 

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