自分で言うのもおこがましいが、僕はどこへ行っても人気者なんだ。
彼らは僕を「さすらいのギター弾き」と呼ぶ。
中学卒業後、僕は誕生日に父に買ってもらったギターを抱えて、家をそっと出た。
それから日本を旅する毎日だ。
カッコよく言えば、みんなが呼んでくれるように「さすらいのギター弾き」になったということだ。
僕は親不孝の子だ。
家を出て以来、親に連絡さえしていない。
親が健在かどうかすら知らない。
僕は、さすらいなどというカッコいいものではない。
ただの「放浪のギター弾き」だ。
ただ、ひとつ分かることがある。
僕がギターを弾くと、曲を聴いた人々は足を止め、ステップを踏んで踊り始める。
ダダダダダン、タタタンタッタ。
ステップを踏む音は次第に大きくなり、やがて地響きとなって大地を揺らした。
「ワァー!」
歓声とタップの音が、大きな波となって広がっていく。
ギターの音に引き寄せられ、集まってくる人、人、人……。
ダダダダダン、タタタンタッタ。
僕のギターをもっと多くの人に聴いてもらいたいというテレビ局の人が現れた。
そんなわけで、僕はテレビの音楽番組に特別出演することになった。
音楽番組は全国に生放送された。
たった一度の出演だったにもかかわらず、僕は一躍、時の人となった。
「いいよぉー! これぞ音楽だぁー!」
「胸がキュンとしたよぉー!」
「さすらい様、これからも、もっと聴かせてぇー!」
高評価の声が、あちこちから僕のもとへ届いた。
もちろん、僕のアンチもいた。
「何がさすらいだぁー! さすらっていないぞぉー!」
「俗世間に染まってどうすんだぁー!」
「身の程をわきまえろぉー!」
「気に食わんなぁー!」
「これが音楽って? おまえ、何様のつもりだ?」
僕はどうしたらいいのか、分からなくなった。
そんなとき、僕は父が家を出る前に言った言葉を思い出した。
「ギターを買ったのは、お前が好きだって言うからだ。そんなもんで飯は食えんぞ! もっと地道に勉強しろ!」
分からないから、僕は家を出た。
「食えるか、食えないか、やってみる」
父にそう言って家を出てから、どのくらい経っただろう。
「これから僕は、どこへ進めばいいんだろう」
父が心配していたことが、今なら少し分かる。
けれど僕は、そこそここの音楽で飯を食っていけている。
飲食店にギターを持って入っていくと、みんなが僕を席に呼んでくれる。
「さすらい様だ!」
「本物だ!」
「一緒に飲もう!」
僕は今日も、みんなに囲まれて楽しく過ごす。
だから、僕はギターを弾く。
僕は、どこへ行っても人気者なんだ。
ただし――
僕がギターを弾かないと、誰も僕には近寄ってこない。
「ところで、君のギターって、どんな音なの?」
僕はギターを見つめた。
「……そういえば、僕は自分のギターの音を聴いたことがない」

コメント
コメントを投稿