登頂

首都・東京は狭い土地だ。

徳川幕府が江戸に開かれて以来、この街は目まぐるしい発展を続けてきた。

限られた土地に多くの人が住むため、人々は折り重なるように暮らしている。

だから高層ビルが建ち並ぶ。最上階まで三千段はあるだろうか。もっとも、誰も階段など使わない。エレベーターに乗るだけだ。

しかし、東京にも例外がある。

下町と呼ばれる地域だ。

そこは海抜マイナス五メートル。北と東、西を川に囲まれ、南は海に面している。

土地は周囲の水面より低いため、街全体は高い堤防にぐるりと囲まれていた。

その地域で唯一、高い場所が【展望の丘】だった。

地上約百メートル。駐車場の階段を五百段ほど登ればたどり着く人工の丘である。

もし周囲の堤防が決壊すれば、人々はこの丘へ避難するしか生き延びる術はない。

今日もまた、一人の男が五百段を登り切った。


頂上で胸いっぱいに息を吸い込み、誰に聞かせるでもなく叫ぶ。

「お山の大将、俺一人」

コメント