彼女は、プロレスリング業界で「ゴッド姉」と呼ばれていた。
全身黒ずくめ。
鋭い目つき。
そして、その巨体から繰り出される技は、妙に美しかった。
その夜、彼女は業界の新春交流パーティーに参加していた。
周囲のレスラーたちがスーツ姿で談笑する中、彼女だけはリング衣装に近い黒いロングコート姿だった。
「ねえ、きみも今日はドレスとか着ればいいのに」
業界理事の一人が、酒臭い息を混ぜながら後ろから声をかけた。
次の瞬間だった。
ゴッド姉の必殺技――
『瞬殺冗談回し蹴り』が炸裂した。
理事の体は、肥えた体格からは想像もつかない高さまで浮き上がった。
二秒ほど宙を舞い、ゆるやかな放物線を描いて床へ落下する。
ドガッ。
鈍い音が会場に響いた。
会場は静まり返った。
しかし次の瞬間、なぜか拍手が起きた。
「さすが理事!」
「年を取っても命知らずだ!」
「受け身が完璧ですねぇ!」
理事は白目をむいたまま動かなかった。
その後、彼は救急車で病院へ搬送され、同時にセクハラ行為の現行犯として理事を解任された。
ちなみに、回し蹴りが炸裂したのは――
彼が彼女のお尻を触った直後だった。

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